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第十回 「自らが感じた現役時代との違い プロ野球界のいまむかし」 [07.06月号掲載]
プロ野球界の今昔物語とでもいったらいいのかなー。私が目の当たりにした今と昔。ユニホームを着ていた時代と、フロントマンになって球界を見たときの違い。かなり変わっていた。キャンプインした。変化したシステムに興味を持ってみた。投手出身の私。まずはブルペンで色々な出来事に遭遇した。ピッチング。各投手が毎日銀紙を剥いて、ニューボールを使用している。今時、こんな事を言っても信用されないだろう。我々が入団したころ、同じボールを何日か使ったような気がする。大事にしないと大変。ワンバウンドを何球も投げようものなら、ボールに傷がついて投げ辛い。それどころか「どこへ投げとんねん」怒鳴られた挙げ句、ノーコン投手のレッテルまで貼られたものだ。現在の野球は「高目に投げるなら、ワンバウンドの方がいい」の時代。逆にキャッチャーが大変。変わったね。
十五年間新聞記者をしてきた。当然プロ野球を中心に取材していた。球界に流れはある程度把握していたが、理解できそうで、できなかったことがある。ブルペンでの投球数。投手の肩は消耗品だという人が出てきた。キャンプでも投球数は一日五十球前後。ピッチングフォーム、リリースポイントなど、技術は身体で覚えるものであり、叩き込むものだ。我々の時代、投げはじめは別にして、百球以下という日はまずなかった。果たして、これでコントロールがつくのだろうか。疑問を抱かざるを得なかった。いや、疑問符はついたままだ。それでも故障者が出る。いい身体をしているのに信じられない。猿木チーフトレーナーに聞いてみた。「今の選手はアマチュア時代あまり球数を投げないまま入団してくる。だから、元々肩や肘が強い子なのか弱い子なのかがわからない。その点、昔の人はアマ時代、毎日三百球も四百球も投げていた。その投球数をクリアできずに故障する人は、エースになれなかった。要するに肩、肘の強い人しかピッチャーになれなかった。その差ですよ」。説得力のある話だ。今と昔、時代の流れがよくわかったが、もっと強烈に疑問を感じたのは“アイシング”だった。
猿木忠男チーフトレーナー
「肩や肘は絶対に冷やすな」アマ、プロを通して指導者によく注意を受けた。真夏にちょっと泳いだだけでも怒られた。それが「氷で十数分間冷やす」という百八十度の転換だ。今や、ピッチングをしたあとのアイシングは当たり前になっている。こんな、とんでもない事を持ち込んだルーツを探ってみると、なんとタイガースにあった。猿木トレーナーである。1978年、広島と合同で、アメリカはフロリダ・プラデントンで行われた教育リーグに参加した。そこで目に止まったのが、投げたあと氷で肩や肘を冷やしているアメリカの投手の姿だった。米国ではすでに主流の手当てだ。「投げたあとの肩や肘が起こした炎症を抑えるには、冷やした方が効果的」の答えは出ていた。取り入れない手はない。即実行に移った。
現地では「教育リーグに参加した選手は、その光景を目の当たりにしていたし、気温も高かったので試してみる選手はいた」らしいが、全員が受け入れてくれたわけではない。道程は決して平坦ではなかった。当然だろう。相手は身体を資本とするプロ野球選手である。拒否反応はあって当たり前。今まで実行したことのない手当て。肩、肘を痛めたらおまんまの食いあげだ。特にベテラン投手。長年馴れ親しんだ身体のケアーはシミついている。なかなか信用しようとしなかった。大変だったのは翌1979年の安芸キャンプだ。
まだ毛糸で編んだ“肩当て”なるものがあった時代のような気がする。冷やせば故障の一因になる。素直に受け入れることなど、できっこない。振り返ってみると、私がフロントマンとして復帰した年、まだ小林繁投手が在籍していたが、アイシングをしている姿は記憶にない。江本なども拒否した選手の一人。「まあ、色々ありましたわ」猿木トレーナーの言葉がすべてを物語っている。転換期の苦悩。並大抵のことではなかったはずだが、苦労の甲斐はあった。今では欠かすことのできない手当てになっている。その他、極端な変化といえば水分補給。「水を飲むと汗をかいて疲れるからダメ」から「汗をかいたぶん水分を補給するように」と変わった。アイシングと水分補給。医学の進歩からきたものだろうか。
アイシング元年の1978年といえば、そう、江川問題が勃発した年。巨人が勝手に空白の一日を設けて同投手と契約をすると、翌日のドラフト会議ではタイガースが指名した。あえて火中の栗を拾うあたりは、さすがタイガース。大変な方向に進展する問題となったが、この年、新東京国際空港(成田空港)が開港した。かたちは違え、いずれもひと悶着あった出来事。意見の食い違いは絶えることのないのが世の中。プロ野球界、長い歴史の中の今昔物語。まだまだある。
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