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月刊タイガース(今月号) > 半世紀回虎録バックナンバー第十四回
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第十四回 「今でも信じられない 二十三年前の不思議な出来事」 [07.10月号掲載]

  「信じられなーい」。昨年のお立ち台、日本ハム・ヒルマン監督が叫んだひと言。二度の広報担当生活で、私が経験した最も不思議な出来事は、まさに同監督の雄叫びそのものである。1984年だった。主人公は、土佐のいごっそう・中西清起現投手コーチ。マスコミの情報網たるや想像を絶する。高ーいアンテナを張りめぐらせてニュース、話題を捜し求めて歩きまわる。毎日の事である。こんな厳しい相手の目をかいくぐった。あれからもう二十三年。いまやジョークで話せる話題になったが、不思議でならない気持ちなのは当時と少しも変わらない。同コーチには思い出したくない事を掘り起こして申し訳ないが、どう考えても信じられない出来事。この連載から外すわけにはいかなかった。
 いごっそう、そのままの性格。気骨はなかなかのもの。やんちゃな若者であり、ちゃめっけもたっぷり。テレ屋の一面を持ち合わせ、優柔不断な行動は見せかけ。根はしっかり者。高知県出身。酒は強い。その酒を飲みに行くつもりだったのだろう。深夜、点呼が終わったあと、ムクムクッとやんちゃ心が頭を持ち上げた。寮を抜け出そうと二階の窓からこっそり、と思ったところが悪い事はできない。とんでもない事が起こってしまった。運動神経は発達しているはずなのに、なぜか、そのまま足を踏み外して転落。額を何針も縫う大ケガをした。
 顔面は血だらけ。中西の姿を見て、当時のさすがの寮長もビックリ。とっさの判断で救急車を手配しようとしたまではよかったが、「119番は何番や」とわけのわからない事を口走るほど動揺したという。この「119番は何番や」は一時、虎風荘の流行語になったほど。チーム内では知らない人はいなかった。本題に戻ろう。ドラフト一位の選手。その時点ではファーム生活をしていたとはいえ、注目度は高い。練習どころではない。当然休まざるを得ない。休めばマスコミは臭いをかぎつける。前代未聞の出来事。スポーツ紙なら間違いなく一面のニュース。その状況が目に浮かぶ。一報を聞いた時、まずは自分の気持ちを落ち着かせることから始めた。ニ、三度深呼吸をしてみたが、いい考えは浮かんでこない。じっくり構えている時間はない。大いに悩んだ。
 ケガをした事実は曲げられない。どう対処すべきか。苦慮した結果の結論は『マスコミの先手を取ろう』だった。ガラス張りの広報活動を目指していた。その方針に向かって、当時の岡崎球団代表(故人)に申し出た。「ドラフト一位の選手です。練習を休めば必ずマスコミにバレます。こちらから先手を打って発表しましょう」と―。我々が、きっちり理論武装してかかれば、長引く問題ではないと判断しての進言だったが、完全に却下された。マスコミの情報網を考えると怖い。執ように食い下がってみたが、受け入れてもらえなかった。
 同代表の返事は、「何言うとんのや。こういう問題をわざわざこちらから発表する必要はない。表面に出た時の対応をしっかり考えておけばいいんや」だった。こうなったら上司の指示に従うしかない。それからというもの「いつ表面に・・・。今日ぐらいかな」、頻繁にかかってくる電話に出るのが怖かった。新聞を見るのも恐ろしかった。覚悟はしているものの針のムシロ。一週間がたった。半月が過ぎた。一カ月が経過しようとしているのに静かだ。「本当にこんなことってあるのだろうか」。ついに見つからなかった。中西が練習に参加してホッと胸をなでおろした反面、自分が描いていた広報活動に疑問符がついた結果には、なぜか物足りなさが残った。心のどこかに、岡崎代表を見返す気持ちがあったのは確か。
 あの頃、スポーツ紙のトラ番記者は一紙二人か三人だった。ファームにはある程度の話題が無いと足を運ぶことはなかった。現在では四人か五人。鳴尾浜球場に必ず一人は顔を出している。良き時代だったのだろう。今、当時の担当記者にこの話を持ち出してみても、「我々の取材不足以外の何ものでもありません」。通り一辺倒のジョークが返ってくるだけ。ましてや、本人も「そんなことありましたっけ」。意に介する気配なし。どうやらこの問題、こだわっているのは私だけ。二十三年前。もう遠い昔になっている。
 世の中を振り返ってみる。オーストラリアからコアラの親善大使が。学術用だったが、コマーシャル等で大ブレークしたエリマキトカゲも来日。新宿のデパートでお披露目された。こんな可愛らしい来客は我々の気持ちを癒してくれたが、グリコ・森永事件のような苛立ちを募らせる出来事も多々あった。プロ野球界は、古葉監督が率いる広島が日本一に。世界の福本豊氏(阪急、現オリックス)が1000盗塁を記録した年。当の中西投手、事件の翌年にはリリーフエースとして優勝に貢献。胴上げ投手になるなど、最優秀救援投手に輝く活躍をした。タイガース、ついに日本一に。


                            
                      
 

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