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第十五回 「21年ぶりのリーグV 歓喜と祝杯の顛末」 [07.11月号掲載]
1985年10月16日。感動の瞬間がやってきた。虎ファンの熱気が充満する神宮の杜。対ヤクルト24回戦は、最終回の攻撃を残すのみとなっていた。2点のビハインド。相手のマウンドにはエース尾花(現・巨人投手総合コーチ)が仁王立ち。試合の流れを見る限り、正直この日の胴上げは諦めかけていた。わずかな望みにすがるしかないが、いつ、どこで、何が起こるかわからないのが野球だ。ひとつのプレーがゲームの流れをガラッと変えるのも野球だ。野球は筋書きの無いドラマだという。脚本などありっこない。台本も無い。誰も演出することのできないドラマを、見事に演じていったのは頼もしき名優たち、そう、猛虎軍団の面々だった。一丸となっていた。決して諦めない信念と強い気持ちでリーグ優勝を勝ちとった。
ドラマの幕が開いた。いきなり目に飛び込んできたのは主砲・掛布のホームランだった。カウント1−3、レフト方向へ強くたたいた打球は左翼ポールを直撃した。勝負師の本領を発揮した一発で1点差。岡田が続いた。あわや連続ホーマー、と思わせる一打は中堅フェンスにダイレクトで当たる大二塁打。強烈な幕開けは、お客さんの目を舞台に釘付けにした。優勝マジックは1。引き分けでも優勝は決まる。代打の北村が送った。一死三塁。続く代打は佐野である。勝負強さは天下一品。出番がくるまでベンチ裏でわき目もふらずバットスイングをしていた。集中力をぐっと高めて打席に立った。さすがだ。期待に応え、楽々とセンターへ犠牲フライ。ついに追いついた。
ドラマはまだ続いた。スタンドはもう胴上げムード一色。時間切れまで2イニングスはいける。後は中西(現・阪神投手コーチ)の右腕に任せるしかない。物怖じしない。度胸は満点。快調だ。九、十回と完璧。6人できっちり片付けた内容は三振3、内野ゴロ3。最後のバッターを投ゴロにしとめた。試合は時間切れの引き分け。21年ぶり、ついにリーグ優勝の決定だ。喜び勇んでマウンドへ駆け寄るナイン。その一団を見て、一瞬目を疑った。なんと、ベンチから飛び出した選手の中、ダントツで先頭を走っているのがチーム一鈍足の川藤ではないか。『最後のバッターが打った瞬間に飛び出した』らしい。普通、アウトを確認してからスタートするもの。速いはずだ。この光景は大いに笑わせてもらったが、マウンドで喜んで抱き合っている選手、達成感をかみ締めている顔は光り輝いて見える。どの顔も実に素晴らしい。
吉田監督の胴上げが始まった。2度、3度と宙に舞う。心配していたファンの乱入は無い。試合中も外野席の前列4、5段はお客さんを入れていない。その空席には関係者を配置。心無いファンのグラウンド乱入阻止につとめてくれた。また、フリーボードには『阪神タイガース、優勝おめでとう』の電光文字が映し出された。ありがたかった。神宮球場並びにヤクルト球団の協力による、抜群の警備態勢と粋な計らいには、ただ、ただ頭が下がるばかり。お蔭様で心置きなく胴上げを楽しむことができた。ドラマは大いに盛り上がって幕が下りた。熱狂するスタンドのファン。神宮の杜にはいつまでも、いつまでも『六甲おろし』がこだましていた。
祝勝会場は東京の常宿・サテライトホテル後楽園二階の駐車場。球団代表、監督等の挨拶が始まると、何社かのカメラマンが当初の打ち合わせに反して早目に会場へ入り込んだ。はやる気持ちはわかるが、こちらにも段取りがある。目出度い席だというのに、広報担当の私。祝勝会の仕事は、まずカメラマンとの喧嘩から始まるという情けない状況。わりの合わない事この上ないが、行事はどんどん進んでいく。メインイベントのビールかけが始まった。あっちでも、こっちでも奇声を発し、ビールが飛びかう。掛布は一斗樽の中にはまり込んでいる。はしゃぎまわる選手たち。岡田が、真弓が、バースがビールをかけてまわる。ムードは最高潮。カメラマンは解放したものの、腹の虫はおさまらない。何か、私一人がその場のムードから浮いている感じだが、仕事が終わったわけではない。

今度はインタビュールームへの選手の派遣だ。何せ21年ぶりの優勝である。最後までしっかりと仕事はしなくてはならない。同ホテルの二階大広間。テレビ、ラジオ等多くて何社だったかよく覚えていないが、各社それぞれが場所を区切ってインタビュー室を設けている。そこへ、監督、コーチ、選手何人かを送り込まないといけない。一社で終わる人。三社も四社も掛け持ちの人がいる。簡単に終わるはずがない。各選手たちのインタビューが終了したのは、午前一時を回っていた。本当に疲れた。ホッと一息ついた。やっと開放されたがもうホテルは蛻の殻。いたしかたなく一人さみしく食事会場へ行くと、そこには故・岡ア代表がいた(この五日後社長に就任)。 私の顔を見るなり『おう、ご苦労さんやったなあ』の声をかけていただき、ビールを注いでもらった。そのひと言でやっと我に返ったような気がした。そのビール、本当にうまかった。最高の味だったね。
アルコールの匂いがこんなに臭いものとは思わなかった。ホテル三階のワンフロアーを借り切っている。別の階に宿泊していた我々、用事で三階へ行ってみるとめちゃくちゃ臭い。これは、まさに悪臭だ。後日、ホテルの人が『しばらくは使用できなかった』と話していたが、あの匂いでは絶対無理。そういえばこの年、日本一になったときは某競輪場でビールかけを行ったが、そのままの姿で乗った帰りのバスも当分は使えなかったようだ。その匂い。次の日選手の体からも発していた。前日のビールかけでスパイク、スニーカー等に匂いがしみ込んでいたとはいえ、皆さん、かなりの祝杯をあげたようで、ベンチの中まで酒臭い。ケガが心配だった試合は無事終了。目指すは日本シリーズだが、この一年はいろいろあり過ぎた。今回一度ですべてを書き尽くそうとしたがやはり無理。グラウンド外でも出来事が・・・。
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