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月刊タイガース(今月号) > 半世紀回虎録バックナンバー第二十七回
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第二十七回 「知将から闘将へ 強虎の幕開け」 [08.11月号掲載]

 激務が終わった。本来ならホッと一息つきたいよね。この気持ち、皆さんにはわかっていただけると思うが、甘かった。『せめて一日でも』・・・、とんでもなかった。深夜の野村監督辞任会見を行った翌日だった。出社すると、本社から呼び出しがあった。考えてみれば当然の事。もう十二月だ。トップが決まらないことには組閣、補強が手遅れになる。時間はない。球団の役員と本社会長室へ通された。待ち受けていた人は久万俊二郎オーナー(退社)。打ち合わせの内容は言うまでもない。次期監督の件。辞任劇のあくる日だ。何名かの候補者が出てくる事を予測。自分でも、それなりのOBを頭に浮かべて話を聞くと・・・。耳を疑った。
 星野仙一―。中日ドラゴンズ以外のユニホームは着た事がない。名古屋色はかなり濃い。おまけに、この年のシーズン終了後に退団したばかり。まずは不安が頭をよぎった。万が一、星野氏に断られた場合、次に引き受け手がいなくなるからだ。この世界、一流を極めた人のプライドは並外れて高い。『アイツに断られたから、オレかよう』の強烈な反発にあうのは目に見えている。最悪の事態を想像すると怖い。私の意見としてそのままオーナーにぶつけてみたが、同オーナー、うなずくだけ。その様子を見て、すぐに接触があったことを確信した。タイガースにしては珍しく動きが早い。翌日、我々は名古屋へ出発した。
 星野氏の気持ちは前向きだった。ここに至るまで、誰が、何処で、どのような交渉をしてきたかは定かではないが、何度目だったか、交渉場所と同ホテルで行われた、当時タイガースの選手だった上坂太一郎氏結婚式が重なった時。自ら進んで式典に飛び入り。二人の門出を祝う挨拶をした。その姿、すでに阪神タイガースの監督だった。名参謀・島野育夫(故人)ヘッドコーチを譲り受けてきた。田淵幸一バッティングコーチも連れてきた。行動力は流石だ。中途半端になっていた当時日本ハム・片岡篤史選手(引退)の獲得交渉に自ら乗り出して話をまとめてきた。日、時に余裕はなかった。降ってわいた大役。しっかと受け止めてくれていたのが心強い。
 統率力には定評がある。チームを引っ張る牽引力は抜群。厳しさは言うまでもない。公式戦開幕。いきなり七連勝。素晴らしいスタートを切った。一緒に働いてみて星野仙一という男“闘将”の活字が誌面を飾るゆえんがわかった。行動にすべてが現れている。無気力試合で負ける。即、集合がかかる。『お前等、このまま元にチームに戻ってしまいたいんか。今日みたいな覇気のないプレーをしていたら、去年までと一緒やないか。せっかくいいスタートを切ったのに、こんな野球では勝てるはずがない』ハッパをかけるタイミングがいい。顔は怖い。選手は最下位の悲哀をいやというほど味わっている。胸にグサッと突き刺さるひと言は効き目がある。
 更に追い打ちをかける。『今頃からプレッシャーを感じてどうするんや。ペナントレースの終盤で優勝争いをしてみい。小便をちびりそうになるゲームは必ずくる。いいかー。気持ちの持ち方や。本当に優勝したかったら“優勝押たい”なんて生やさしい気持ちではダメ。“絶対に優勝するんだ”という強い気持ちがなかったら、この世界、勝ち進んでいけないんや』かなり厳しい口調の叱咤。ふだん、試合後のミーティングは行わない監督だが、この時ばかりは迫力満点。結局就任一年目は実を結ばなかったが、星野イズムが浸透したのは確かだった。
 球界の大物。噂は否が応にもついてまわる。当然、私の耳にも入ってくる。いい話、ありがたくない話。いきなりびっくりさせられたのが、あの人ならではの気遣いだった。初代、二代目ミスタータイガース・藤村富美男さん、村山実さん(故人)の『墓参り』の依頼がきた。考え方は人それぞれだろうが、チームの伝統を重んじる行動は、各OBの信望を集めたに違いない。私に直接関係のある対マスコミ。各社とも、タイガースに対しての風当たりが、かなり強いのも承知していた。この件、何度か話をしているが、発想も素晴らしい。掲げた方針は『マスコミも戦力』宣言。キャンプから連日トラ番記者と朝食を共にするなど、徹底してコミュニケーションの場を設けた。広報部長の出る幕はない。まさしく、広報部長を兼ねた監督だった。
 ペナントレースに突入した。開幕戦。いい緊張感の中でスタートした。東京ドームでの巨人戦。井川の好投でゲーム展開は素晴らしかったが、中盤、不整脈が突然星野監督を襲った。以前にも同球場で同じ症状を起こしているようだが、息苦しそうだ。顔色は悪い。しばらくロッカーで休憩するほど。私の方で勝利インタビューを断ろうと思っていると『大丈夫です』と言い残してベンチへ。何事もなかったように振る舞い、勝ちゲームのナインを迎え、完投勝利の井川を抱き抱えた。勝利インタビューも普通にこなしてバスに乗り込む。並みの監督ではない。そういえば、その年のオフ。金本獲得に動き出した時の行動力。すさまじいバイタリティーは、何か大きな物を掴み取ってくれる人物に見えた。本社はチーム作りの考え方を変えてくれた。球団のフロントは動きやすくなった。現場は戦う集団になってきた。体制は整った。チームが強くなるのは目に見えていたが、残念ながら私。このシーズンを持って定年退職となった。強くなるのをわかっていながら身を引く辛さ。悔いは残った。いたたまれない心境になったが、私に目に狂いはなかった。優勝―。うれしいやら、腹が立つやら。複雑な心境だった。
 そろそろネタは尽きてきましたが、最後に身軽になって見てきたタイガースに触れてみる。
 

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